二度繋がることはほとんどないこと

2012.02.08

同じ相手と二度繋がることはほとんどないことだ。ただ彼女の場合、たいていは電話口で泣いているだけなので、他の客に繋がってもすぐに切られてしまう。だから僕にまた繋がったのも無理はない。また泣き声。同じ泣き声が受話器の向こうから聞こえてくる。そうやってどこかから運ばれてくる泣き声は僕だけに届く秘密の手紙みたいに聞こえる。泣き声を目を瞑って聞き続ける。泣き声は確かに僕の心のなかに繋がっている。ある意味、泣いているのは女性だけではなくこの僕も、なのだ。この世界も、なのだ。この広い世界のどこかで泣いている誰だかわからない女性がひとりいて、その声を僕だけが聞いている奇跡。秘密の手紙を読むみたいな感情の奇跡。「ごめんなさい」「もう泣き終わった?」「うん。今日の分はおしまい」「そう」「あなたは女の泣き声なんか聞いていて楽しいの?どうしてさっさと切らないの?」「退屈だから」「そう。こういう場所の男の人ってもっと野性的にエッチなことを期待しているんだと思っていたわ」「野性的?」「もっと直線的に。時限爆弾みたいに」僕は少し笑った。その笑い声で彼女は何かを感じ取った。「ひょっとして……あなた前の人?四番目の光さん?」「そうだよ。二度目だね?」「私のことは始めから気づいていたのかしら?」「女性の泣き声ってそれぞれ違うんだ。よく聞くとそれぞれ違うんだ。似ているようでもそこにはそれぞれの泣き声があるんだ。だから君は君でしかない。君の泣き声は君の泣き声でしかない。それにテレホンークラブで女性の泣き声を聞いたのは君だけだもの。当たり前だけれど」「そうなの?みんな泣かないの?私は泣きたい時にこの番号を使っているのよ」「そんなの君だけだ」「あれあれ。みんな性行為ばっかりなのかな?あなたはどうなの?どんな相手を探しているの?」「俺は小さいこの箱のなかが気に入っているんだ」「そうよね。あなたのそういうところが私、気になるの。小さい箱のなかから誰かと奇跡的に繋がったとしたらどうしたいの?あなたは助けを求めているの?ねえ、四番目の光さん?」