「うん。食べすぎると思うよ。情緒的なストレスにはさまざまなものがあるけれども、それに対する内分泌系の対応は同じで、同じ変化をもたらすことがわかっている。アドレナリンやノルアドレナリンやコルチソルなどのストレス・ホルモンが分泌され、それはインスリン抵抗を高めて血液中のインスリン値を上げる。すると、セット・ポイントが上がるというふうに連動するんだ。だからストレスが大きいと食べすぎるということになるのだが、脳の視床下部は内分泌系の下垂体の前葉と血管で直接につながっていて、機能的に結合している。つまり、脳が内分泌系と食欲中枢である視床下部のところでつながって関与しているわけだ」「インスリン抵抗とは?」「これが最も重要な問題で、ストレスが肥満の引き金になるのはどんなストレスであっても結果的にインスリン抵抗を高めてセット・ポイントを上げるからなんだ。」「インスリンは細胞がブドウ糖をとり入れるために必要なホルモンだが、細胞膜にはインスリン・レセプターというものがついていて、それにインスリンがタッチするとブドウ糖とり入れ用の回転ドアが開いてブドウ糖が細胞の中に入るようになっている。逆にいうと血液中にブドウ糖が十分にあっても、インスリンがインスリン・レセプターにタッチしなければ回転ドアが開かないために、細胞に入ることができないわけだ。そうなると血液中にブドウ糖がだぶついてきて血糖値は上がるけれども、細胞はエネルギーを生み出すことができなくなる。インスリンはいわば“開け!ごま”といって、回転ドアを開ける係だから、すい臓は血液中のブドウ糖の量に見合うだけのインスリンをつねにつくり出そうとする。血糖値が上がればブドウ糖値も上がるのだが、なにかの理由でインスリンがタッチしても回転ドアが開かなくなることがある。正確にいうと、まったく開かないということはないけれども、開きにくくなることがある。」「開く能率が落ちるわけだ。それをインスリン抵抗が高まるといっていて、インスリン抵抗が高まれば当然、インスリンは自分の役目を果たすことができないために血液中にだぶついて、血液中のインスリン値が上昇する」「インスリン抵抗というよりも、インスリンに対する抵抗だね」「そうなんだよ。この用語は英語のインスリン・レジスタンスの訳だが、そこがわかりにくい。しかし、とにかく、その抵抗にあって血液中のインスリン値が異常に上昇するとセット・ポイントが上がるんだ。視床下部はそのような調節をしてしまうんだね。だぶついているインスリンに対してはセット・ポイントを上げて“もっと食べよ”という指示を出す一方、だぶついているブドウ糖に対してはそれを脂肪に変えて貯蔵するという調節を行う」「それではどんどん肥っていくわね。ダブル・パンチで肥満が促進されるわけだ」「そのとおり。体はなぜかそのような調節をするのだが、肥満している人の血液中のインスリン値とブドウ糖値の変化を調べてみると、いずれも正常域を超えて異常に高くなるときがある。つまり、グラフで描くと正常域からとび出した山が周期的にやってくるわけだ。だからそのままでは、どうやってみても肥満は解消できないことがわかるだろう?」「だったら、ストレスを蒙ったらもうどうにもならないということじゃないの?」
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